2010年10月13日水曜日

銀座のおばちゃんの店

よく昼飯を食う店が銀座5丁目にある。
「勝」という小さな定食屋だ。
僕らは「おばちゃんの店」と呼んでいる。

鯖の塩焼き、鯖の味噌煮、アコウダイ、豚のショウガ焼き、
そして日替わり定食。メニューはいつもこれだけだ。

どれを食ってもうまい。素材にもこだわっているし、
板さんがしっかり仕込んで作っているのがわかる。

何を頼んでもお盆に収まりきらないくらいの
たくさんの小鉢がついてくる。
サラダ、炒め物、昆布、漬け物、冷や奴やソーメン、
その日によって数も内容も違う。これが楽しみ。

でもこの店の本領はここからだ。
食べ始めてからしばらくすると、おばちゃんが
「これ食べな」と次々とサービスをしてくれるのだ。

明太子や卵焼きをご飯の上にのせてくれたり、
唐揚げやフライなんかを出してくれる時もある。
お団子やお餅をくれたりするときもある。
コーヒーや自家製の梅酒なんかを出してくれる時もある。

食べきれないほど食わしてくれた上で、おばちゃんはいつも
「お腹いっぱいになった?」っと聞いてくる。満面の笑みで。

おばちゃんは僕らのお母ちゃんだ。
僕らは完全に子供になった気分でおばちゃんの店に行く。
あの店にいく親父たちはみんなそんな気分だ。

飯を食って対価を払う。店と客の関係。
でも、おばちゃんと僕らの間には
「かけがえのないもの」が確実に存在している。

僕はそれを信じている。
それこそが人の世の光だ。

いつしか僕らにとっておばちゃんは「かけがえのない存在」になった。
それは、おばちゃんが僕らを「かけがえのないもの」として
大事にしてくれたからだ。


戦略とかマーケティングとかブランディングとか、
そんなものは全部偉い人が後から考えた理屈だ。
すべては人間の愛情と情熱が通った後の轍に過ぎない。

おばちゃんはそのことを身を持って教えてくれる。

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