2010年11月2日火曜日

世界でたった一つの物語

先日ある方と電話で打ち合わせをしていた。
依頼されていたある原稿の内容についてだったのだ。

その方はある「イメージ」を私に伝えようとして下さるのだが、
私がなかなか理解できない。

私  「なるほど、こんな感じですか?」
先方 「うーん、そうじゃなくて、例えばさ、・・・・・」
私  「ということは、こうですね?」
先方 「いや、一概にはそうはいえないんだよ・・・・」
私  「じゃあ、こんな感じですか?」
先方 「んー・・・・」

こんな会話が20分ほど続いた。

コミュニケーションは難しい。

会話って表面上は言葉のキャッチボールだけれど、
本当はイメージのキャッチボールをしている。
そして、そのイメージとはそれぞれの人生経験によって
大きく異なってしまうもの。

例えば、「山の上に浮かぶ白い雲」といっても、
人それぞれ全く違う高さの山をイメージするし、
違う形の雲をイメージする。

ましてやそれが「顧客満足」とか「丁寧」とか「やる気」などの
『目に見えないモノ』だと余計に難しい。

そういう「難しいイメージ」を言葉でやり取りして、
伝えていくのはかなりの至難の業だ。というか、ほとんど無理だ。

電話のやり取りは一向に埒があかなかった。
私は途方に暮れつつあった。

会話が一段落したとき、
「じゃあ、とりあえず書いてみますから、一度見てもらえますか?」
そう言って電話を切ろうとしたとき、先方がこうおっしゃった。

「あのね、今ベストセラーになっている○○○○って本を読んでみて。
その本を読んだのがきっかけで今回のアイデアを思いついたんだ。」

「わかりました、読んでみます。」そう言って電話を切って、
その足で本屋に向かった。その本のことは全くしらなかった。

目当ての本は平積みになっていた。どうやら小説らしい。
手にとってぺらぺらと見て「これなら数時間で読めそうだ」と思った。

読み始めてすぐに引き込まれた。典型的な主人公の成長ストーリー。
ダメな若者がたくましい1人の大人になっていく。

読みながら先方が私に伝えようとされていた、
ニュアンス、背景、空気感といった、
言葉の後ろに隠れていたイメージが私の中でぐんぐん広がった。

そして、それと同時にそのイメージが私に熱を与えた。
要するに、感動したのだ。

そうなると早い。原稿はすぐに書けた。
先方さんも「いいですね!」と喜んでくれた。

あれだけ苦労した原稿が、あっという間に書けた。
なぜそんなことが起こったのか、考えてみた。

私に特別な「書く才能」があるわけでは決してない。
そうではなく、対象に対してリアルなイメージを持つことが出来て、
かつ、感動したら、誰だって書けるはず。

文章の上手い下手はあっても、そんなものを凌駕する文章になる。
小学校の読書感想文と同じだ。
その本に本当に感動したらいい文章(=伝わる文章)は書けるのだ。
(そこのところをわかっていない親や先生が多すぎる!)


・・・・・・・・・・・


さて、ここからが本題。
この経験で私はある非常に重要なことに気がついた。
そのことを書きたいと思う。

すべての経営者は、抽象的なイメージを伝えることの難しさを
日々感じている。
私も経営者の末席の末席に並んでいるで、
多少なりともそのことはわかる。

組織の理念、ビジョン、ミッション、バリュー。
それらを組織を通じて体現化していくことが経営者の仕事だ。

そのために、組織の構成員(従業員)に日々、さまざまな機会を通じて、
懸命にそれら(理念、ビジョン、ミッション、バリュー)を
伝えようとしている。

けれどなかなか伝わらない。
その苦悩は大きい。

経営者は孤独だとか、そういうことを言っているわけではない。
「伝えたいことが伝わらないこと」の損失の大きさを、組織の中で
もっとも実感しているのが経営者であろう、という意味だ。

そもそも1人1人の背景が違う。視界が違う。経験が違う。
バックグラウンドのすべてが違っているのだから、伝わらなくて当然だ。
しかも、伝える内容がすべて抽象的な「目に見えないモノ」なのだから、
その難易度は極めて高い。

その難しさが苦悩を生む。多くの経営者が半ば諦めながらも、
日曜の夜には月曜の朝礼のスピーチを考え、
経営会議では大声を張り上げ、
出張帰りの新幹線の中で独り社内報の原稿を執筆する。

そうなのだ。
ほとんどの組織には「あれ読んでみて」と言えるような
『一冊の本』がないのだ。

共通のイメージをつくり、コミュニケーションの土台となるような、
そんな『一冊の本』がないのだ。

今の私にはこのことが決定的なことに思える。
ないなら創ればいい。
私たちがその担い手になればいい。
それは多くの経営者の役に立てるのではないだろうか。

すべての組織には歴史がある。
その歴史は、創業者や経営者の生い立ちから始まっている。
創業時の紆余曲折があり、やがて成長期を迎え、変革を迫られ、
やがて第二、第三の波が創られていく。
すべての歴史はその繰り返しだ。

その歴史の中に物語りがある。
世界でたった一つの、その組織だけの物語だ。

その物語とは、自分たちが大切にしてきたモノ
(理念、ビジョン、ミッション、バリュー)が
体現されてきた歩みであり、組織という汽車の轍なのだ。
そこには数え切れないほどの喜怒哀楽があり、真実の瞬間がある。
そして、その一瞬一瞬があったからこそ、今がある。

そんな物語が一冊の冊子にまとまっていたらどうだろう。

それを読めばイメージがぐんと広がるような、
「あれ読んでおいて」と、たった一言そう言うだけで、
何十時間もの議論が削減でき、
リアルなイメージを共有化できて、
その上感動までしてしまう、

そんな自社だけの、世界に一冊の、物語ブックがあったとしたら。

「イメージの共有」+「感動」。
これが人を動かす。

社員が元気になる。
パートナー企業さんがいい仕事をしてくれるようになる。
お客様がますます応援して下さるようになる。
株主様や金融機関にもビジョンをわかってもらえる。
すべてのステークホルダーに読んでもらえたら、
その組織を中心とした共感の輪が広がっていくはずだ。

私たちの手で、お客様の組織の中にある物語を紡いでいく。
そんな仕事がしたい。それこそが私たちの使命だ。

思えばこれまでもずっとそんな想いで仕事をしてきた。

世界にたった一つの、その組織だけの物語を紡いでいくことで、
お客様の組織を元気にし、事業変革のスピードを高め、
働く人のモチベーションを高め、共感の輪を広めていく。

そんな役割を担いたいと思う。

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